逃げ出した先に

 プロジェクトの都合上逃げ出した人間を幾人かみてきた。
 プロジェクトの途中で消えるようにいなくなるもの、出社をしなくなってしまうもの、病気を理由にこられなくなるもの。
 そこには様々な人間が様々な理由でいるのだろうと思う。

 自分があるプロジェクトに参加したとき、それはすでに最初から炎上するのがわかっていて、どうしようかと悩んだプロジェクトだった。
 膨大な遷移状態をしるしたファイルだけを渡されてそれで終わり。実際には遷移する際の細やかな仕様(画面の状態や表示や操作)はどこにも記されておらず、画面イメージは紙切れ一枚に記してあるのみ。
 ……これは要求に応えようにも答えられない。そう思いながらとりあえず仕様を固めるものがいないので自分で仕様をまとめ、矛盾点を洗い出し記述上おかしな点を直す。
 しかし、どうみても間に合わない。

 顧客にはメインプログラマである人物が「見せかけ上動いているプログラム」を組んで提示している。技術がわからない人間には進捗上問題がないように見える。見えるだけでそのプロジェクトの中身はすでに炎上している。
 圧倒的に仕様が足りないのだ。歯抜けでは設計も実装もできない。

 ふっと夜中の開発室で思った。ライターと煙草をみて考える「煙草の不始末で火がついてここが燃えたらつくらなくていいのにな」と。はっと我にかえるでもなく、そんな事を考え続けていた。要するにどうにもならない状態だった。
 少なくともこちらからの質問に対し仕様を踏まえながら簡潔に答えられ、こちらからも実装上可能かどうかを投げかける相手が目の前に必要だった。

 要求が通ったのか、ある日仕様を知っているという人物が常駐にやってきた。日々判明し続けるすべての不確かな部分をその人物に流して、新しい遷移図と画面イメージを受け取る。受け取った図に目を通しながら実装をして、矛盾があればそれを問うことを続ける。

 目の前に千里の道として広がっていた関門は徐々に短くなり、とうとう終端までたどり着いた。
 今でもそのときに考えた事を思い出す。そこで「何かを待つ」ではなく「何かをして」いたら今はなかっただろう事を思う。
 逃げる人間は逃げる人間できっと何かを考えているのだ。